牧民の作る主な製品、肉、乳、乳製品、皮革、フェルト、羊毛などは遊牧民の生活の中に微生物の豊かな環境があることでもたらされます。モンゴルの草原には、目に見えるハエ、蚊、スズメバチ、ミツバチ、蝶などの昆虫がいますが、目に見えないたくさんの種類の微生物もいます。その多くは、私たちの生活に必要な有益な菌です。これらの菌の助けにより、遊牧民は皮やフェルトを加工し、ボルツを作り、乳製品を発酵させます。微生物がいなければ遊牧民はヨーグルトや馬乳酒を発酵させることはできないでしょう。つまり、モンゴルの遊牧民の食べ物、飲み物、衣服、生活全般に微生物の大きな働きがあるのです。
手付かずの自然の中で暮らす遊牧民。その生活環境は微生物の働きの上に成り立っています。善玉菌と呼ばれる微生物は、悪玉菌から人体を守り、病気にかかりにくくしていると考えられています。最近の多くの研究でもこれらは証明されています。子どもを過剰に清潔な環境におくと、免疫力が弱まり病気にかかりやすいといわれます。モンゴルの子どもたちが家畜と生活し、砂にまみれて遊んで育つことは、「汚れる」のではなく、自然の中にある微生物が体を丈夫にすることだと考えられています。遊牧民が自由に草の上に座り、草原の様々なものを汚いと考えないのは、このような理由からです。
草原に初めて来た旅行者は、乳製品、特に馬乳酒が体に合わず、下痢をおこすことが少なくありません。これは馬乳酒が非衛生的に作られたからではなく、旅行者の体が馬乳酒を発酵させる乳酸菌を受付ない、またはそれに慣れていないということなのです。
過剰な都市化、化学工場や煤煙を伴う環境が私たちの周りにあり、自然の中の微生物が失われていきます。最近のモンゴルの草原での都市化、鉱山の開発、工業化などで、遊牧民は今まで経験したことのない変化に直面しています。